映画

成瀬巳喜男『流れる』

田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子と豪華絢爛な役者陣。 この4人が同じ画面に納まっているというだけでうっとりである …と言いたいところだがこれは嘘で、役者を揃えれば誰でもこんな映画が撮れるわけではない。 むしろ普通なら逆の事態が起こる。 …

黒沢清『叫』

僕たちが今現在において感じている意識というものは、この映画の冒頭で殺人事件が起こる埋立地のようなものである。 土が盛られ、道が引かれ、マンションが建ち、木さえ植えられたりもするのだろうが、 そのような景観はかりそめのものでしかなく、そこが海…

セドリック・クラピッシュ『スパニッシュ・アパートメント』

フィリップ・ガレルにとっては68年の経験とそれに続くニコとの生活はとても大きなもので、おそらく彼にとって現在とは68年の延長として考えられるような時間の中にある。 彼にとっては、68年を描くことは現在を描くことであり、現在について何か考えるなら68…

2月の踊るロード賞!

ダニエル・シュミット『トスカの接吻』 エルンスト・ルビッチ『山の王者』 チャン・リュル『キムチを売る女』 マキノ雅弘『次郎長三国志 第五部』 キム・ギドク『うつせみ』 なんだかんだで新作をあまり観ていない。 去年に比べればいいペースだが。 去年の…

フレデリック・ワイズマン『アメリカン・バレエ・シアター』

アメリカン・バレエ・シアター(ABT)という団体を撮ったドキュメンタリー。 ドキュメンタリー映画では、作者の顔が比較的よく見えるもの(作者が映像として映っているかどうかと言う意味ではなく、作者の人となりが映画から伝わってくるかどうかということ…

エルンスト・ルビッチ『山の王者』

ビデオ上映ではあるが、柳下美恵によるピアノ演奏付き。 もちろん伴奏付きのサイレントなど初めてだったが本当にすばらくて セリフの無い映画で音楽にいかに雄弁に語るかを目の当たりにした。 トーキーになってサイレントが持っていた映画の可能性の多くが失…

キム・ギドク『うつせみ』

ギドクの映画の登場人物が喋らない理由については考えるだけ無駄ではないかと思わないでもないのだが(笑) とりあえず、ある種の制約を作ることによって、映画内で「出来ること/出来ないこと」をはっきりと分けてしまい、 それによって出来なくなることをバ…

曽根中生『不連続殺人事件』

これは自己言及的な映画なのだが、 単なるメタフィクション的な図式が導入されているだけでなく、 それが物語の形式と見事に一致しているところが面白い。 この映画にはほとんどアップのカットがない。 6人もの人間が殺され、総勢20人近い登場人物(ほとんど…

ダニエル・シュミット『ベレジーナ』

シュミットは蓮實重彦が「73年の世代」と呼んだ作家の一人である。 73年とはジョン・フォードが死んだ年であり、 つまりは映画の黄金時代が終わった後に映画を撮り始めた世代だということだ。 …とまぁ本を読むとそう書いてある。73年には僕は生まれてないの…

マリー=クロード・トレユ『合唱ができるまで』

ドキュメンタリーは何を撮りたいのかがはっきりしていたほうがいい。 それにはタイトルも重要だ。 『エドワード・サイード OUT OF PLACE』とか『ジョン・ケージ』とか、 サイードやケージの何を撮りたいのだあんたらは、と言いたくなってしまう。 そして実際…

吉村公三郎『嫉妬』

この映画はラストで離婚した高峰三枝子が「一人で歩いてみたいと思うの」と言って終わるのだが、 『婚期』で彼女は離婚して自由に生きる女性の役を演じている。 あれはこの映画の主人公・敏子の将来の姿なのかもしれない、などと思う。 (名前も家族構成も違…

ピーター・グリーナウェイ『フィリップ・グラス/メレディス・モンク』

グリーナウェイがテレビ用に撮ったドキュメンタリーシリーズの一つ。 悪口は書きたくないので作品名は挙げないが、 「音楽ドキュメンタリーとはこれほどつまらないものなのか…」 と思わせる映画を最近何本も続けて観たので、とりあえず映像と構成の質の高さ…

ダニエル・シュミット『季節のはざまで』

70年代までの作品の中でのシュミットの「虚構」は ある種特殊な、異空間的な様相を呈していた。 80年代以降の作品では、虚構と現実の境は見た目にはむしろ明確になっているのだが、 虚構が現実を侵食する度合い、現実の中における虚構の濃度が高くなっている…

内田吐夢『大菩薩峠』

原作は読んだことがないが、 主人公・机龍之介は「人斬りに憑かれた男」のはずである。 お松の祖父を斬り殺す冒頭のシーンには何の説明もなく、 富士の見える美しい峠の風景となんの意味もない殺人、 お松の悲痛な叫びと龍之介の無表情の対比にハッと胸を打…

チャン・リュル『キムチを売る女』

固定ショットで捉えられた主人公スンヒの後ろでバサバサと木の葉がはためく(ただしステレオ)のを見て 「ああ、ストローブ=ユイレだな」と思ったのだが、 事前情報↓では監督のチャン・リュルは映画なんてほとんど観たことがない人のはずではなので少し戸惑…

ダニエル・シュミット『トスカの接吻』

ヴェルディが「自分より幸福でなかった音楽家たち」のために作った養老院のドキュメンタリー。 ヴェルディの著作権が切れてからは苦しい経営だと言ってたけど、今でも残ってるみたいですね。 カンツォーネもオペラも普段は聴かないけれど 老人たちの歌う歌に…

ダニエル・シュミット『ヘカテ』

モロッコの日差しは強く、その日差しに照らされたものは濃い影を落とす。 主人公ロシェルの顔にも、木の、鉄柵の、窓枠の、影が射しその顔が晴れることはない。 もちろんそれはクロチルドの影を象徴する。 彼はクロチルドの影から逃れることはできない、とい…

吉村公三郎『越前竹人形』

吉村公三郎を観るのは初めてで、今日観た2本は『越前』が悲劇、『婚期』はコメディで どちらも冴えた演出と圧倒的に美しいカメラの傑作なのだけれども 心の底から人を不愉快にさせる映画なのです(笑) 面白い映画であることと不愉快な映画であることは両立し…

ダニエル・シュミット『カンヌ映画通り』

フィクションと言うか幻想と言うか虚構と言うか… どれもしっくりこないけどとりあえず虚構と呼びますが、 シュミットはその虚構に対して尋常ならざる情熱を注いでそれを作り上げますが、 同時に、そんなものは壊れてしまっても構わないと考えているようなと…

ダニエル・シュミット『ラ・パロマ』

シュミットは、フィクションの映画はもちろんのこと、 その妙なドキュメンタリーに至るまで徹底して虚構を撮る人です。 『今宵かぎりは…』はあり得たかもしれない架空のパーティであり 『書かれた顔』はあり得たかもしれない架空の玉三郎であり、 この『ラ・…

1月の踊るロード賞!

フィリップ・ガレル『失われた恋人たちの革命』 冨永昌敬『シャーリー・テンプル・ジャポン』 ダニエル・シュミット『今宵かぎりは…』 マキノ雅弘『次郎長三国志 第一部』 ソフィア・コッポラ『マリー・アントワネット』 最近、シネマヴェーラ、フィルムセン…

ダニエル・シュミット『今宵かぎりは…』

冒頭で映し出される城は、ヨーロッパのどこかに存在する城などではなく、 隠り世の中に一時的に出現した幻の城です。老女が客(召使)たちを招き入れるシーンでは 部屋の入り口がまるで鏡のようで、 鏡の向こうからこちら側に入ってくる客たちは その入り口…

キム・ギドク『弓』

『サマリア』が割と普通の映画だったので ギドクも「変態」を使わずに純愛を描こうと試みているのだろうか、 新たな表現の模索してゆくのかしらん?などと思ったのも束の間、 最新作は今まで通りの変態映画でした。なんやっちゅうねん。しかし、今までの映画…

キム・ギドク『サマリア』

ギドクの映画の主演女優の顔がどれも好きではなくて 趣味が合わないなぁと思ってたんですが この映画の主演は二人ともかわいいです。 ハン・ヨルム(ソ・ミンジョン)当時20歳。 『弓』では22歳で16歳の役をやってますが 学歴社会で俳優も大卒が多い韓国では…

マキノ雅広『次郎長三国志 第一部・次郎長売出す』

ハスミンの話では1年前のシネマヴェーラのオープンの時には客が4人しかいなかったそうですが(笑) 今日は満員御礼、お立ち見でした。階段に座って観たからおケツが痛いです。 三本立てを立ち見で観るなんて高校生の頃に観たゴダールのオールナイトを思い出し…

山中貞雄『河内山宗俊』

まぁ残ってるだけでも貴重なんで文句は言えませんが 音の状態が悪くて何を言ってるんだかさっぱりわかりません。 しかし、セリフが半分以上聴き取れなくても内容はわかる。 かなり複雑な設定にもかかわらず状況は明快で コメディから人情、チャンバラととに…

ウディ・アレン『マッチポイント』

ウディ・アレンの面白さは会話にあるというよりも セリフ回しももちろんそうですが、 顔まで含めたキャラクター造形の上手さにあると思います。 僕はクロエのキャラクターがとても好きなんですけど、まず顔がいい。 育ちもよく人がよさそうで、美人なんだけ…

増村保造『曽根崎心中』

劇画的と言うか紙芝居的と言うか… 「若尾時代」のリアリズムからの脱却を図っていたのでしょうか。 ずいぶんと仰々しい演技です。 梶芽衣子は元々大きな目をカッと見開いて 瞬きすらしないのでちょっと怖いです(笑)そのような演技に対応するかのように この…

須川栄三『君も出世ができる』

とにかく曲が最高です。 谷川俊太郎の歌詞もよいけれど黛敏郎がすばらしい。 ちょっと調べたらかなりの数の映画音楽を書いていて (僕はほとんど観ていないけれど) 「ああ、あれも」というようないい仕事をしています。「タクラマカン」と歌う高島忠夫と「…

冨永昌敬『シャーリー・テンプル・ジャポン』

環境音(鳥の声や街宣車の音)の使い方や 町長候補夫妻とそこに寄生するプー太郎という取り合わせ、 3つのカメラ位置(けっこういいかげんでぶれているけれど(笑))の間のパンと 数カットのみで成り立たっているカメラワークなどなど、 パート1はあきらかに…