冨永昌敬『シャーリー・テンプル・ジャポン』

環境音(鳥の声や街宣車の音)の使い方や
町長候補夫妻とそこに寄生するプー太郎という取り合わせ、
3つのカメラ位置(けっこういいかげんでぶれているけれど(笑))の間のパンと
数カットのみで成り立たっているカメラワークなどなど、
パート1はあきらかにストローブ=ユイレのパロディなのですが
ストローブ=ユイレをパクっておきながら笑えるものとして成立しています。

かなりの低予算(だと思う)であまり時間をかけられないというハンディは
25分にもわたるワンシーンワンカットを撮るには厳しい制約になりそうなところですが
字幕入りのセリフなしにしてしまうことで、長回しのリスクを軽減しつつ
外国映画風の雰囲気を醸し出してしいます。

ストローブ=ユイレの映画を換骨奪胎しながら
パロディとしての面白さではなくて
(パート2が何のパロディなのかは僕にはわからないし
もしかしたらパロディですらないのかもしれない)ギャグとして成立させてしまうのがすごい。

選挙カーのセリフは最初はまともそうなことを言っていますが
「不審船、難民船を沈没させます」
町長選挙のとは無関係な内容にすり替わっていく。
完全に意味不明な内容になるのではなく、選挙的な文脈は保ちつつ
町長選のレベルとはズレているという点が重要です。

「女を男三人で自由自在に転がして あらん限り楽しむつもりだろう!」
というセリフはもちろん「女を犯すつもりだろう!」という意味で言ってるわけですが、
後で実際に女をゴロゴロと転がすシーンが出てきて(笑)
上のセリフの意味が転倒されると共に
ただの悪ふざけのように見える、女をゴロゴロ転がすシーンに
猥雑なニュアンスが付け加えられます。

パート2は、状況がよくわからなかったパート1に対し
普通の短編映画風に撮られることで一見説明をしているように見えますが、
菊地成孔の『南米のエリザベス・テイラー』のPV(というか短編)でもそうだったように
より詳しい内容のパート2が撮られることでパート1の謎が加速度してしまっています(笑)

一本筋の通っているようで実は通っていない文脈を仮定しておいて
その文脈に寄り添うようでいて実は微妙にズレた意味を投入し
それが積み重なることで最初に仮定されたはずの文脈が霧散してしまう。
しかし、なぜかその出鱈目な世界は、しこりのような違和感ではなく
爽快な解放感を味わわせてくれます。