須川栄三『君も出世ができる』

とにかく曲が最高です。
谷川俊太郎の歌詞もよいけれど黛敏郎がすばらしい。
ちょっと調べたらかなりの数の映画音楽を書いていて
(僕はほとんど観ていないけれど)
「ああ、あれも」というようないい仕事をしています。

タクラマカン」と歌う高島忠夫と「アメリカ」と歌う雪村いづみ。]
マイナーで一本調子に歌う高島に対し、
雪村の「アメリカでは…」は「アメリカでも…」に変わり
曲も長調から短調になっていつしか高島の曲にシンクロし
最後には二人で「タクラマカン」とデュエットしてしまう。

高島がぼーっとしているように見えて実は意志が強いこと、
雪村の気持ちが徐々に揺れていく様子、
そして二人の気持ちが重なって恋に落ちたことが
音楽によって表現されているのですが、
音楽といっても普通の歌では表現しきれないものであって
ミュージカルのストーリーの中だからこその見事なシーンだと言えましょう。
クリス・コロンバスはこのような映画を観て
ミュージカル映画とは何かを学ぶとよいでしょう。

音楽(歌)の見事さに比べると
ダンス(特に群舞)の稚拙さは否定できませんが、
太い身体で二十日ネズミのように動くフランキー堺
ひょろ長い身体でいつもぼーっと突っ立ている高島忠夫
常に調子っぱずれなアクセントを画面に与えていて
揃わないダンスのちぐはぐさを逆に味に変えています。

須川栄三アメリカに行って本場のミュージカルを勉強したそうですが
自分たち(つまり日本)の現在の技術の限界を知りつつ
そのハンディを利用してフランキーと高島の面白さを引き出す手腕は
クリス・コロンバスが学ぶべきものでしょう(しつこい)