保坂和志「羽生 21世紀の将棋」

将棋の指し方は一応知ってますけど、 全然強くはありませんし、そんなに興味もありません。 将棋論にかこつけてるけど、実は芸術論である、 と、保坂本人が言っていたので読んでみたわけです。 もともと、羽生善治という人のことは、TVで喋ってるのを見て お…

柴崎友香「今日のできごと」

発表された時期も媒体も異なる短編と、 書き下ろしによって構成されているので、 短編集と呼ぶこともできそうだけど、 7人の男女が集まって呑んだくれた日の話を、 5人の語り手が、それぞれ別の視点から語った話になっているので、 一遍の長編小説としてもよ…

鴻上尚史「あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント」

借りるのがためらわれる題名である(笑) てか、実際恥ずかしかった。 普通に見たら自己啓発本の類だと思うだろう。 てか、実際に自己啓発本だ。他に読んだことないんで知らないが、一般的な自己啓発本は、 内面から変わろうという精神論か、 コントロールしよ…

阿部和重「映画覚書vol.1」

emergency medical hologram、略してwbntです。 緊急事態の概要を述べたまえ。 今日は映画の話と見せかけて、実はスタートレックの話です。阿部はこの本の中で、蓮實重彦の言う『映画のスペクタクル化』 要約すると、視覚効果の優位と物語の衰退、 について…

平山瑞穂「ラス・マンチャス通信」

切り離し式ロケットのような小説である。 5章形式の長編で、長編であるからには ストーリーはきちんと繋がってはいる。例えば、主人公「僕」は、1章で「アレ」と呼ばれる化け物を殺し、 どうやらそれが原因で、2章では施設に送られる。 この小説がすごいのは…

角田光代「いつも旅のなか」

鋭い感性っていう、なんだか曖昧で よく考えると意味がわからない言葉がある。 正確な定義はできないが、この本を読んで思ったのは、 思考の柔軟性と正確さのことかなぁ、と。 今まで社会主義国を旅したことは幾度かある。その旅で私が知ったことは、 ◎二重…

間抜けっぷり

1、「いつも旅のなか」というタイトルである。 2、表紙は著者の角田が、どっかの外国で、子供と戯れている写真だ。 3、彼女がテレビで、旅が好きだと言っていたのを知っている。…本を手に取った時点で、これだけの情報があったわけで どう考えてもこれが旅行…

鵜飼哲「償いのアルケオロジー」

鵜飼は、アウシュビッツの生き残りであり、 フランスにおける歴史修正主義についての本を書いた歴史学者 ピエール・ヴィダル=ナケについて以下のように述べる。 もっとも危険な倒錯は、戦争の犠牲者がはっきり確信していることを犠牲者の側が証明しなければ…

自由と配分

岩田靖夫は「ヨーロッパ思想入門」の中で、 ジョン・ロールズの正義論について解説している。 自由とは、各人が自分自身の善の観念をもち、また公共的理性を分有することによって成立するのであるから、このことをすべての人に確保することが、平等の実現と…

岩田靖夫「ヨーロッパ思想入門」

この本の骨子は、ヨーロッパの哲学が ギリシアの思想と、ヘブライの信仰という 二つの土台の上に立っている、という話だ。 これを読むと、神なしで倫理を打ち立てるのがいかに困難か、 ということを考えざるを得ない。 いっそキリスト教徒にでもなってしまい…

藤沢周「ブエノスアイレス午前零時」

この小説では、距離(具体的な、というよりは抽象的な)が キャラクター達からエロスを引き離している。 主人公のカザマは東京で広告代理店に勤めていた時と 山村の雪国でホテルの店員をしている今の自分の距離を 常に意識しながら生きていて、 例えば当時つ…

昨日の続き「文化系女子カタログ」

宮台真司が『島宇宙化』と言った概念があって、 ある社会全体にとっての統一的な目標 (戦前であれば戦争、戦後なら経済成長) が失われる後期資本主義社会では 各人の志向がバラバラになり、それぞれが自分の蛸壷にこもる。 こういう社会では、オタク、ギャ…

売り手市場?

上に書いた話なんて実はどうでもよくて(←おい!) この特集で何がいちばん気になったかって、 『メガネ男子萌え』っていう言葉ですよ。 そんな言葉は今回初めて知ったんですけど、 今がチャンスってことなんですか? このことについてはまた後日書くと思い…

ユリイカ11月号「文化系女子カタログ」特集

文化系女子というカテゴリーが作られなければならない理由は そういったアイデンティファイを必要とするような切実な問題が 当の女子達の中に持ち上がってきたからだと思われます。 そしてそれは、オタクというカテゴリーが作られた時と同じく 主に性的な領…

阿部和重「グランド・フィナーレ」

アニメ監督の神山健治は 『ナウシカのやり方に反感を持つ不満分子だって風の谷の中にいるはずだ。 それを描いちゃうとあの映画のような爽快な物語にならないけど 今の作り手はそういうものを描かずにアニメを作れない』 (↑うろ覚え)というようなことを言っ…

オリエンタリズムの射程

姜尚中は「オリエンタリズムの彼方に」の中で、 フーコーの「狂気の誕生」をとりあげ、古典期には 『狂気は本質的に理性の否定であり、その存立そのものへの脅威とみなされた』 のに対し、近代においては 『狂気から一切の余白を取り去って監禁による治療の…

音楽と力

実はまだ半分も読んでいないのだが、 姜尚中「オリエンタリズムの彼方へ」より 権力は、一つの制度でものなく、一つの構造でもなく、ある種の人々がもっているある種の力でもない。「それは特定の社会において、錯綜した戦略的状況に与えられる名称なのであ…

石川忠司「孔子の哲学」

孔子である。仔牛ではない。なぜに孔子か。 ちょっと前に読んだ石川の本が面白かったからもあるのだが、 自分の倫理が危機的な状況にあったから、という理由もある。 結果的にこれを読んでずいぶん救われた。 めでたしめでたしである。 心配をおかけした方々…

我、発見せり

ユリイカ10月号(攻殻機動隊アニメ版の特集)を借りてきて読んだのだが わざわざ借りることもなかったなぁと思っている。 夏一葉「二〇三〇年の童貞たち」は面白かった。 まぁ簡単に言えば、神山健治は、 マッチョ主義を避けようと努力しているし マッチョ批…

池田清彦「構造主義科学論の冒険」

はいはい、いきなり引用ですよ〜。 外部世界に自存する不変の同一性としての実在」という構図は、この実在が観察可能になれば必ず破綻します。なぜならば観察可能な外部世界と我々がみなすものは、実は我々の経験(=現象)であって、それは時間を内包して必…

斎藤美奈子「妊娠小説」

鴎外から辻仁成まで、日本近代文学における 『妊娠』についてぶった斬る文芸批評であります。今までに無い切り口で対象を批評する時 (と言ってもこの本が出たのは10年以上前だけど) なにも対象となる作品の 今まで誰も知らなかった側面が明らかになる、 な…

ところで彼女は日本人なの?

「パティ・ディプーサ」で何に驚いたって わたしはデヴィ・スカルノみたいに静かな美と優美さでもって、男たちを引きつけるってわけじゃないのよ。 という文である。この小説で引っ張り出されてくる固有名詞は、 日本人はもちろん、掲載された雑誌の読者でも…

ペドロ・アルモドバル「パティ・ディプーサ」

アルモドバルだけど映画じゃなくて、小説なのです。 小説やエッセイもたくさん書いているそうな。石川忠司は舞城王太郎の小説を内言のエイタテイメント化と呼ぶ。 『「内言」の引きこもって鬱陶しい性格が物語の進行を妨害するならどうしたらいいか?話は簡…

大道珠貴「裸」

『時間が経つにつれ、私はどんどんどんどん気がめいっている。まんまと生徒のデートの誘いを受けた先生が、どこか情けなかったからだ、とも言えるけれど、でもきてくれなければもっと私は傷ついただろう。傷つくなんてなんともないが。なんにしたって、先生…

石川忠司「現代小説のレッスン」

石川が藤沢周平の「高札場」という小説(僕は読んでませんが) について解説している。あらすじとしては主人公の清佐衛門が、源太夫という武士の自殺について捜査し、 彼が友世という恋人を捨てて別の女と結婚し 友世を不幸にしたのを悔いて自殺した。 と、…

パンツ

ひどいタイトルだが、下着論の本を読んだ後なのだから こうなってしまうのも仕方がないことなのであります。「スカートの下の劇場」は1989年に出版されてるんだけど、 母親、もしくは妻が下着を管理する事態について書いていた。 上野は一人暮らしの男性のこ…

上野千鶴子「スカートの下の劇場」

アメリカ製のポルノグラフィはいくつか見たことがあるけど (写真もビデオも)なんとも退屈な代物だった。 長い間、僕はこれを文化の違いだと思っていた。 例えば、美男美女の基準が文化によって違うように、 美味しいと感じる味が文化によって違うように、 …

橋本治「人はなぜ「美しい」がわかるのか」

読んでてわかるところとわからないところはあるけど 一番面白かったのは、美しいと言うためには 他者が必要であるというところ。50年代のハリウッド映画と、21世紀のJ-POPと、 ルネッサンスの教会美術と、 芸術にもいろいろあるけど それらの何が同じで何が…

飯田隆「クリプキ」

『言葉の意味についての言明が、世界にもともと備わっていつ事実について語る事実言明ではなく、世界の側に投影されたわれわれの態度について語る言明だと考えることである。』クリプキ(飯田)は「クワス演算」という特殊な例を使って 言葉の意味が世界の有…

田口ランディ・寺門琢己「からだのひみつ」

田口ランディの小説を読んだことはないんだけど これ程までに脱近代的な小説家も珍しいんじゃないか。 とか言って僕、それほど小説家のこと知ってるわけじゃないけど。反近代が意図的に近代から距離を置こうとすることだとすれば 脱近代ってのは近代を全く無…