鴻上尚史「あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント」

借りるのがためらわれる題名である(笑)
てか、実際恥ずかしかった。
普通に見たら自己啓発本の類だと思うだろう。
てか、実際に自己啓発本だ。

他に読んだことないんで知らないが、一般的な自己啓発本は、
内面から変わろうという精神論か、
コントロールしようという技術論か、に二分される(と思う)

この本が面白いのは、内面とは技術である
という柄谷行人的文学観を実践に移したことにある。
表情や言葉を魅力的に演出するということは、
表面を取り繕うような消極的な行為ではなく、
そもそも人格というものは、表情とか言葉といった
人間の各システムの総体のことなわけです。

ぶっちゃけて言えば、表面を上手く取り繕うことができれば
内面的にも魅力的な人間になれる、ということ。
もちろん、内面→表面という作用もあるわけだが、
そっちの方は誰もが言ってることで(『内面から美しくなる』等)
現状では、表面→内面という回路が、
社会的にあまりにも認知されていないので、
一発おいらが啓蒙してやろう、という本なわけですね。

表面を取り繕うなんて書くと、誤解を受けるかもしれませんね。
(鴻上がそういう言葉を使っているわけではないのでご注意を)
それはファミレスのマニュアル対応のようなものではありません。
ファミレスのマニュアル的な接客は、失敗例です。

ああいうバイトをしたことがある人はわかると思いますが、
料理が遅れてしまった時なんかは、
店員も、申し訳ないなぁと思っています。
その申し訳なさを客に伝えるための技術が、
マニュアル接客には不足しているのです。

さて、唐突に話題を変えますが、
音楽に魂を込められるか、という話です。
音楽をやってる人なら誰でも知ってることですが、
魂を込めて歌えば、音にそれが宿るわけではありません。

かと言って、魂のようなものがないというわけでもないし、
それが技術的に偽装可能なものだということでもありません。
上手い言葉が思い浮かばないので、ごく単純化して言いますが、
音楽の魂などというものが実体としてあるわけではなく、
楽家の内面(思考なり情熱なり)と、それを表現する技術の総体、
その相互作用の産物が、その音に見出される時、
それを音楽の魂、というような言葉で表現するのだと言えましょう。