溝口健二『祇園囃子』

わ、若尾文子がかわいい!そんなバカな。
かわいくて初々しい若尾文子なんて
みずみずしい干し椎茸や温かいかき氷と同様、形容矛盾と言うべきではないか。
ああおぞましい!

木暮実千代は本当に色っぽい。
「しゃなりしゃなり」って音が本当に画面から聴こえてきそうなたたずまい。
しかしね旦那、自分の屋敷で一人でいる時に
あんな色っぽく手ぬぐいの端を噛む女なんてあたしゃおぞましいですよ。
きっとお座敷での立ち振る舞いが身にしみてしまったんでしょうねぇ。
「私はこの暮らしに身も心もそまってしまった」ってセリフが響きます。
悲しきサガなんですねぇ。

木暮実千代の最後の泣き落としだってね
そりゃ確かに泣けますよ。あたしだって泣きましたとも。
でもね、言ってることは浪花千栄子のおっかさんと一緒じゃないですか。
人は助け合わねば生きてはいけない。おおいにけっこうその通り。
でもあんた(若尾)やあんたのおとっつぁんを助けたから
私を助けてくれとでも言うつもりですかいお姉さん。

そりゃ助け合いじゃなくて強制ですよ。
義理人情じゃなくてしがらみですよ。
その意味じゃこの場面ほど日本情緒の本質を突いたものはありません。
ああおぞましい。
でもおぞましいけど泣かせるんです。

いきなり変態的な告白をしますけどね、
わたくしミニスカートよりロングスカートの方が断然好きでしてね。
ふわっとした柔らかさがたまらないのですよ。
タイト目のワンピースとかでも膝が当たった時とかに
布の柔らかさが出るのがいいんですよね。

でも着物って布が重くて固いからこの感じがでないんですよ。
浴衣でもそうだけど、ふんわり波打つんじゃなくて
布全体がパタパタとはためく感じ。
提灯が祭囃子で揺れてるのと似ています。
この映画見ててそういうのも実にいいなぁって思いましたね。
これはおぞましくない(笑)

でもね、あたしゃ着物も芸者も滅びちまって構わないと思いますよ。
世界に誇る無形文化財も全部嘘っぱちです。
映画だって嘘っぱちです、全部フィクションです。
だって芸子の世界があんなにさわやかなわけないじゃありませんか。
美しいところだけフィクションとして取り出してるからいいんじゃありませんか。
こんなおぞましい世界は映画の中だけでたくさんですわ。