Meredith Monk『Facing North』

http://www.amazon.com/Meredith-Monk-Facing-North/dp/B00000E563
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モンクはミニマルミュージックの作曲家と言われていて
実際彼女の曲はミニマルな反復によってできているのだけれど
ライヒやライリーとモンクでは根本的に違う気がします。

ライヒの曲は演奏者に機械になることを要求し、
いかなるミスも許容しないのに対し、
モンクの曲はもうちょっとゆるい。
リズムや音程に完璧な正確さを要求していない、
というか、そのわずかな「間違い」を際立たせるためにこそ
彼女は反復の手法を使っていると言ってもよいでしょう。

貧しい形式であるからこそ微細な表情の変化が際立つわけですが
貧しさゆえの豊かさとう点ではある意味で似ているとは言え、
完璧な正確さからほとんど工学的と言ってもいいやり方で
ズレを生じさせるライヒの手法とは正反対と言えるかもしれません。

では機械的ライヒの曲に対しモンクの曲が人間的なのか、
と言うとそれもまったく違う気がするわけです。
彼女の曲には重苦しくべたついた感情表現の痕跡はなく、
あくまで澄み切って明るく晴れやかです。
「感情」ではなく、もっとナチュラルに「感覚」を刺激する彼女の曲は
例えるなら「人間的」ではなく「動物的」とでも言えましょうか。

そう思うと、このアルバムに鳴り響く声たちが
まるで動物の鳴き声のように聴こえてきます。
「Long Shadows」はふくろうの鳴き声に、
「Hocket」は鳩、「Chinook Whispers」は虫の声のようです。

動物は常に同じような泣き声を反復しますが、
その点で人間の声で最も動物的なのは
英語で「cry」に当たる「泣く」「叫ぶ」でしょうか。
どちらも話し言葉のような複雑な変化をせず同じような音が反復します。
モンクの曲の声はそれに近い。
それは、赤ん坊の泣き声のように
言葉や意識を形成する「前の」言葉にならない声、と言えるでしょう。
だから彼女の曲は僕の無意識を激しく揺さぶるのでしょう。