ジョージ・A・ロメロ『ゾンビ/ディレクターズカット完全版』

ゾンビとはもちろん「生ける屍」の、
表象と言うのもためらわれるほどのあからさまな表象でありましょう。
徹底的なヒューマニストたるロメロは
人間性とは何か、ということを
人間ならざるクリーチャーを通して問いつづけているわけです。

映画で最初に死ぬのはテロリストで、
次に死ぬのはテロリストを虐殺しようとする警官です。
で、冒頭で脱出を断り放送を続けようとしたフラン(ゲイリン・ロス)と
涙を流しながらゾンビを撃ったピーター(ケン・フォーリー)、
この二人が生き残る。
人を人と思わぬ者から死んで行き、
人間性を保った者だけが生き残るわけですね。

ゾンビの描写も、ただ恐ろしいだけのものではなく
コミカルなものも多いし、叙情的な描写もあります。
ゾンビの恐怖を描くのが主眼ではなく
彼らの非人間性人間性(の残り香)を際立たせることで
人間性を問うのが主眼なわけです。

はしゃぎまわりながらゾンビを殺しまくるシーンから一転
車を取り囲まれ恐怖するシーンへの移り変わり。
まわりをゾンビがうろつく中で、綺麗に着飾ってディナーをし
もう使われることのない金を賭けてトランプをするシーン。
極限状況での恐怖と日常性の対比がまこと秀逸です。
言うまでもなく、これらの鮮やかな描写で描き出されるのは
極限状況下での人間性、というロメロのテーマなのですね。