アルノー・デプレシャン『二十歳の死』

二十歳のパトリックが猟銃で自殺を図り、危篤状態のため
親戚中が集まってくる、という話。
この一家を描いた群像劇って言って良いものだろうか…。
特定の主人公はいなくて、一家全員を描いた映画なんだけど、
個々の人物をきちっと描くわけじゃなくて、
ふわっと全体を撮った感じ。

まずキャラの名前が全然覚えられないし、
キャラ同士の関係も覚えられない(笑)
これは僕がアホウだからというのもあるけど、
デプレシャンにそこをきちんと描こうという意思がない、
というのが大きいと思うのですね。

まず引きのショットがすごく多いんですね。
多人数のキャラが写っていて、しかもみんな勝手なことをしている。
冒頭の、母娘が喧嘩をしている横で
おばーちゃんがおいしそうにパンをほおばってる画が
いかにもデプレシャンだなぁ、って感じです(笑)
アップのショットでも特定の人に焦点を当てず
色んな人を次々に撮ったりする。
で、ここでもそれぞれのキャラは、
自分勝手にいろんなことをやっているのですね。

ラスト近くで、若い男衆が集まってサッカーをするんですが、
この映画はサッカーみたいな映画なんですね。
一家はチームみたいなもので、それぞれ個人であり、
一族に対する思いも、パトリックの自殺についての思いも
てんでバラバラなんですけど、
全体としては一つのグループを形成しています。

で、そいつらがちょっとずつ違う考えを抱きながらも
全体としては一つのゲームをやっている
ってのがこの映画なんではなかろうかと。

個々の人物の定まらなさも素晴らしくて、
ラストでパトリックが死んだことを告げられたとき、
マリアンヌ・ドニクールは、まずあくびをして、
うつむき加減に聞き返し、そのあと微笑んで、少し涙ぐみ、
最後に一人になってから突っ伏して泣くのです。
定まらないふわっとした人物たちが寄り集まって
定まらないふわっとした一家を形成している映画なのですね。