宮崎駿「ハウルの動く城」

なんと言ってもびっくりするのは、キスだろう。
ちゃんと口と口でしとる。
斎藤環に『不能ペドファイル』と言われ
(↑しかし、ひどい言い草だ(笑))
直接的な性描写を、徹底的に避けてきた宮崎が、である。

このキスは、ストレートに読むならば
男女間のセクシャルな愛情の表現なのだが、
異形の魔物と化したハウルにキスをするソフィーの姿は、
キリスト教的な色合いをも、同時に帯びている。

ハウル自身が劇中で語っていたように、
彼らは人間社会と相容れないアウトサイダーの集まりだし、
殺戮を繰り返したはてに異形の者となったハウルに対するキスは
恋心であると同時に『赦し』でもあるだろう。
僕がこんなことを言うのは、一昨日読み終えたばかりの
「ヨーロッパ思想入門」にかぶれているからかもしれないが、
あながち間違った解釈でもあるまい(笑)

おそらく宮崎は(不能だから、かどうかは知らないが)
セクシャルな意味での愛情をストレートに肯定することはせずに、
宗教的な意味での愛、と融合させることで
辛うじてそれを肯定しようとしているのだろう。

宮崎にしては異例のことだ、と言いたいところだが、
典型的な宮崎アニメのイメージは
「コナン」からせいぜい「トトロ」の間に形成されたもので、
まったく空を飛ばない「もののけ姫」とか、
主人公の少女がかわいくない「千と千尋」とか、
最近では自らのイメージを常に更新し続けているわけで、
今回も見事に僕らを裏切ってくれたのだ。


ちと気になる点。
最初、ソフィーの声が(うまく言えないのだが)
高音と低音がダブったような、なんとも奇妙な声だったので、
プレイヤーかサウンドカードの調子でも悪いのかと思った。
彼女が呪いで老婆になった後は、普通の自然な声になり、
再び若い娘に戻った時に、また奇妙な声になった。

推測だが、ソフィー役の倍賞千恵子の声が、
若い娘の声には聴こえないものだったので、
録音した声に何らかの加工をしたのではないだろうか。
劇場ではどうだったのか知らないが、
DVDをヘッドフォンで聴くと、明らかにおかしな声である。

そんなわけのわからん細工をするくらいだったら
最初から、娘と老婆を演じ分けられるプロを使えばいいと思うのだが。
宮崎の声優嫌いは有名だが、
作品のクオリティを犠牲にしてまで芸能人を使うというのは
ちょっと理解に苦しむところですよね。