増村保造『清作の妻』『赤い天使』

『赤い天使』は『イーオン・フラックス』と偶然とは思えないほど似ています。
看護婦若尾文子が暴れる患者を押さえつける姿はエロティックで
レイプを連想させますが、言うまでもなく通常とは男女が逆になっています。
そして彼女は、手術で腕をぶった切られた患者と性交し、
モルヒネ中毒で苦しむ岡部軍医と格闘した後、彼とも性交します。

また若尾は『清作の妻』では夫の目に五寸釘を打ち込み、
『赤い天使』でも愛する岡部にはモルヒネを注射します。
イーオンもそうしたように、ここでもまた
男女が逆転した挿入が行われているのです。
そして、この行為によって頑固だった清作も岡部も
彼女に懐柔され彼女を受け入れていくのです。
フェミニストにしてマゾヒスト、増村の真骨頂です。

『清作の妻』は清作がマッチョからダンディになる物語だ、
と言うことができましょう。
「言えましょう」とか言っときながら
マッチョとダンディの違いなど正確にはわからないのですが、僕の定義では

自分のスタイルを貫くために女を犠牲にするが、その痛みを我が物として引き受けること。

がダンディ、それに対してマッチョは

女子供を大切にするが、それ以上に自らの信念を大事にすること。

となります。
紅の豚』がダンディで『サラリーマン金太郎』がマッチョです。

模範青年だった清作は、かね(若尾)に優しいけれど
彼女の気持ちよりも名誉を優先するマッチョでした。
稀代の反マッチョ増村はそんな男を許しません。
かねの孤独を省みない清作は哀れにも目を突かれるのでした。

もちろん清作は怒り狂いますが、
ここで彼が「俺の名誉を汚した!」と言うのにご注目。
可哀想に、そんなことを言うから盲になるのです。
しかし、ここからがマゾヒスト増村の真骨頂。
彼はかねに突かれることによって彼女と同じ孤独を体験し、
真実の彼女への愛に目覚めるのでした。

清作が丘の上に買った鐘は模範青年の証であり、
彼のマチズモの象徴的なものですが、それを投げ捨てることによって
真にかねと共に生きることを決意するのです。
投げ捨てる前に未練がましく愛しそうに頬擦りするのも
なかなかエロティックで趣があります。