エミール・クストリッツァ『黒猫・白猫』

『モンキー・ビジネス』はどっちかと言えばオーソドックスなシーンが
無茶な繋ぎ方で無茶な展開に仕立て上げられますが、
この映画はそれとは逆になっていて、
個々の画面はにぎやかだけどストーリーは無茶苦茶ですが
ストーリーの展開の仕方とか、画面の繋ぎ方はオーソドックスです。

ラストシーンが二組のカップルの結婚式で終わっていること現れるように
この映画では同じ場面、同じ画面の中で
同時に二つのことが進行しています。
二組のカップルも一つは出会ったばかりで
もう一つはこれから二人で旅立とうとしていますし、
肥溜めに落ちてもがいている人もいれば
死んでたのに突然生き返った人もいます。

全員があらぬ方向へ走り出し
画面が分解してしまいかねない状況をまとめるために
「結婚祝い」という単純な芯が必要とされるわけですね。
「何はともあれみんな結婚を祝ってる」ことによって
複数の出来事が同時多発的に起こる乱痴気騒ぎが
奇跡的に一つの場面としてまとめられています。

「複数の」というのは出来事だけにとどまらず、
ネズミの動力により扇風機や、
例えば踏み切りと死体という取り合わせや
ひまわりとパンティという組み合わせ、
人が恋をしたり金を奪い合っている横を
悠々と通り過ぎていく動物達、等等。
事件もモノもおよそ常人の想像力では及びもつかぬような要素が
乱痴気騒ぎのように、しかも秩序を失うこともなく
画面の隅々まで詰め込まれた楽しい映画なのでした。