ジャック・ドゥミ『ベルサイユのばら』

言わずと知れた超有名マンガ(日本では、だけど)を日本人がお金を出して
フランスのキャストとスタッフで撮ってしまおうという企画。
ドゥミ以外にも音楽はミシェル・ルグランでヴァルダも製作に噛んでいる豪華な映画
なんだけど
フランスではマニア以外には知られていないらしい。
日本でしか公開されていないのかもしれません。知らんけど。
キャストはフランス人なのにセリフは英語だし、とにかく変な映画です。

どうでもいい話(ネタバレ)をもう一つすると、
ラストはバスティーユなんですが、撃たれるのはアンドレなんですね!
オスカル(←無傷)が「アンドレ〜!!」って叫んで終わり。
明らかに日本のファンを狙って作った映画なのに
これじゃファンは納得しないだろう(笑)やっぱり変な映画です。

よく知っている話が、原作を無視して好き勝手に作られてるので
ドゥミのドゥミらしさがよく目立ちます。
すれ違いと思い違い、そして変身の主題。

まずすれ違いですが、オスカルはフェルゼンに惚れているんですが、
フェルゼンはアントワネットに惚れているのでオスカルの想いは届かず、
もちろんアンドレのオスカルへの想いも届きません。

変身の方ですが、オスカル自身が変身してますし、
原作では端役だった街娘が
貴族の娘になりすまして成り上がるエピソードが
かなり大きく時間を割かれて語られます。

また、アントワネットが宮殿の庭に田園のミニチュアを作らせて
農夫のコスプレをしてチーズを作ろうとしたり、
演劇にハマって「セビリアの理髪師」を上演しようとしたり
といったエピソードがあるんですが、
これはある種の装置をこしらえておとぎ話を演じて見せる
というドゥミの手法のあからさまな自己言及になっていて
おとぎ話作家のドゥミがここまでやるのか!?
という意味では大変興味深いです。

しかし、自己言及が物語を破壊してしまうような映画ではなく
様々に変身した人物たちが恋のすれ違いの劇を演じ
一部の隙も無く組み立てられた舞台装置が
滑らかに、美しく回転していく、リアリティのかけらもない(笑)
紛れもなくジャック・ドゥミの映画なのでした。


さて、週末にはドゥミ&ヴァルダのオールナイトがあるんですが、
夕方の黒沢を観てしまうとたぶん寝てしまうので…どうしようかなぁ。