ユーリ・ノルシュテイン作品集

アニメーションの本質は
「絵であること」と「動くこと」にあると言えるでしょうか。
ノルシュテインの作品は手法的な制約によって
あまり動かないアニメなわけですが、
「絵であること」を限界まで推し進めることによって
抑制された動きの本質を限界まで捉えています。

『霧の中のハリネズミ』は基本的に2次元の紙芝居的な世界なのですが
ハリネズミが左から右の方向に歩くことで
水平方向に進行していた画面が、彼が森の奥に分け入る場面で
突如奥行きのある画面に切り替わる。
また、迷い込んだ森の奥で見つけた木の下で、
ふと木を見上げることによって垂直方向に切り替わる。

『狐と兎』の冒頭では、
一枚絵に見える背景は実は3枚の絵が重なっていて、
1枚目と2枚目の間をカラスが飛び、
そのあと3枚の絵が違うスピードで左に動くことで
2次元だった世界が奥行きをもった世界に切り替わります。

このような手法の集大成が『話の話』
ダンスを踊っていた人々が突如止まり、
動くオブジェクトだったものが背景になる。
そして、絵の中の人物たちが消えることによって
どうやら人形が踊るオモチャだったことがわかる。
動きから絵へ。対象から背景へ。
そして再び絵から動き、背景から対象へ。

それらの洗練された動きを可能にしているのは
圧倒的に美しい絵であり、
その絵が単なる絵でやることをやめて動くモノになるとき
その抑制された動きの効果が極限まで高められて現れる。
その二つ(絵と動き)の絶妙な相互作用によって
彼のいわゆる「詩的映像」が生み出されているわけですね。