菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー』

おもしろい批評ってのは、新しい音楽の聴き方
(本の読み方、映画の観方、etc)に
読者を開眼させてくれるものです。

エレクトリック・マイルスなんて
今まで面白いと思ったこと一度もなかったんですけどね。

ひっくり返ってもOKなリズムでセッションを行わせておいて、で、編集で適当なところでバッサリ切って、その場所を曲のスタートにさせる。しかもそのスタート・ポイントはセッション参加者グルーブとは微妙に違ったところに設定されている。

テープ上の編集行為によって、楽曲はその演奏者が関知しないまま、最終的には、結果的に全く違った印象の形で完成させられる。こういった、ある種映画にも共通するような空間で、この時期のマイルスのアルバムは作られているんですよ。

Miles Davis『On The Corner』の話ですが、
読んだだけで背中がゾクゾクしてきますね!
そして、これを読んだ後でこのアルバムを聴けばあら不思議、
今まで一度も面白いと思ったことがなかった曲が
なんともスリリングな演奏に聴こえてくるではありませんか!

あとがきの対談で述べられている
「歴史、通史観に対する欠乏感」ってのは僕に強くあって、
音楽が論理的に聴かれないことが苛立たしいのですね。

ちょっと前の日記で「音楽批評なんて不可能かもしれない」
などと日和ったことを書きましたけど、
不可能かもしれないと思わせるような雰囲気が
90年代以降に形成されたイデオロギーでしかない
ということがよくわかって勇気づけられました。

音楽を論理的に聴くことは可能だし、
そのようにすれば今まで経験したこともないような
豊かな音楽体験ができるということですよ。