金井美恵子『小春日和』

金井美恵子の小説の登場人物は、一見すると無遠慮な皮肉屋で
あまり付き合いたくはない人物ばかりなんですね。
彼らは年中人の悪口ばかり言っていて、
悪口ばかり言う桃子の視点で語られるんで
スノッブだったり、ぐずだったりする人物ばかりが
この小説にはあふれることになるわけです(笑)

例えば、母親について

しきりに悪いわねえ、を連発していたけど、本当に<悪いわねえ>と思っているのだったら、自分の娘をここに下宿なんかさせるはずがないわけで、本当のところは、それくらい当然でしょ、と思っているのだった。

などと書いてるわけですけど、
いくらずうずうしくても娘を下宿させるのに
相手に悪いと思わない人間なんていませんから、
本当のところ、悪いわねえと思いつつ、同時に当然でしょ
とも思ってるだろうと考えられるわけですが、
そういう両義的なところをバッサリ切って
イヤミなトーンで全体がまとめられてるのですね。

しかし、本当にそれだけだと
ただのイヤミな小説になっちゃうんで、
例えば「同級生のメガネをかけたチビ」という
悪口みたいな形容詞と共に登場した同級生が、
「吉田さん」になり「花ちゃん」になり、
ついに「花子」と呼ばれるようになるまでの繊細な感じ。

イヤミで世間を斜めに見る桃子が、醒めた視線を保ちつつ
おばさんと花子との間にブラザーフット(のようなもの)
を築き上げていく様子が、この小説の最も美しいとこなのですね。