セドリック・カーン「ロベルト・スッコ」

冒頭近く、ベンチに座るレアの後姿から
いきなりパンして、向かってくるスッコの車を捉え
ロータリーをぐるりと一周してレアの前に車は停まり、
カメラは元の位置へ、そしてスッコに抱きつくレア。

レアの学校のシーンでは、
ゆっくりと近づいてくるスッコを捉え、
言い争いのあと、階段を上るレアをカメラは追い、
道路にたたずむスッコを彼女が見つめ、
暴れるスッコをなだめるために再び駆け下りるレアを捉え
そしてスッコを突き放すレアと
ゆっくりと立ち去っていくスッコ。

共通するのは、一連のシーンの中での二人の空間的な距離が
そのまま二人の心の距離を象徴していること。
冒頭のシーンでは、突然レアの前に現れ
彼女の周りを一周してハートごとかっさらっていく様を象徴しているし、
別れのシーンでは、急激に惹きつけられながらも
どうしようもなく距離を感じて
惹かれたまま突き放してしまうレアの心を象徴するわけです。

この映画の中ではスッコの狂気の理由などは
一切説明されていないわけだけど、
彼は内面のない不気味な存在として描かれてるわけではなくて、
彼の人となりは、恋人や人質との距離のとり方とか、
警官に追われて逃げる時の走り方とかの
演出、ビジュアル的なものの中に現れてるわけです。