瀬々敬久「KOKKURI こっくりさん」

こっくりさんと言えば占いというより呪いだし、
他にもトラウマとかドッペルゲンガーとか、
恐怖を発動しそうなアイコンは色々と出てくるわけだが、
この映画の中では、真に怖ろしいのは
そういうありふれた恐怖ではなく
偶然そこに在っただけのものが
何の必然もなく恐怖の連鎖に巻き込まれてしまうことだ。

冒頭でマサミとアキラの二人は
キーホルダーの話をきっかけに
なんの脈絡もなくセックスをする。
このキーホルダーはラストシーンまで
何度となく登場するのだが、
別に呪いをかけられてるわけでもない
ただのキーホルダーなのだ。

暗い部屋で電熱器が静かに回転する様をカメラは執拗に写し、
主人公ミオの声がラジオから流れる中
二人はセックスをする。
キーホルダーと電熱器とラジオとセックスは
とりあえず何の関連もないはずなのだが、
ただ偶然そこにあったというだけで
同じシーンの中に押し込められ
恐怖のはじまりのイメージを形作ってしまうのだ。

ミオのトラウマは、偶然自分そっくりな子供を見たこと、
母の逢引を偶然見てしまったこと、
そして偶然自分だけが溺れずに助かったこと、であり
彼女を殺そうとする少女は最初からいたのではなく
この偶然を自分の中で飼いならすために
ミオ自身がつくりあげたバケモノではないのか。

そしてバケモノは次々に連鎖的に事件を引き起こし
すれ違い続けたミオとヒロコの二人を結びつけたころには
こっそりとミオのところに舞い戻っている。
無垢で無力であるがゆえのヒロインの強さ、
などというものも、この連鎖には血打ちできないのだ。
そして、なんの意味もなく工事現場が写され、
キーホルダーとともに恐怖を締めくくるのだ。