阪本順治「KT」

三島由紀夫に心酔する自衛官でありながら
韓国政府の金大中暗殺計画に協力する男。
この主人公、富田の設定だけでも
この映画がいかに複雑なものかわかる。

まず日本側の自衛隊と公安も思惑がちがうし
自衛隊の中でもみな違う原理によって行動している。
韓国大使館の中はもっと複雑で
もう一人の主人公、書記官の金は
家族のために金が必要だと言う。
金大中に密かに心酔する者
日本政府の顔色をうかがう者
諜報員を軽蔑する文官など、様々だ。

一人一人まったく違う背景をもった人間達の思惑が
まとまることなく絡み合って
暗殺計画という事件に収束していく、
そのさまを単純化することなく
かといってわかりにくくもなく描き出していく。

この映画がすばらしいのは
主人公二人に迷いがないところだ。
二人とも割り切れない思いを抱えているはずで
ぐだぐだと揺れる心情が描かれてもよさそうなものだが
彼らは常に複雑な表情を浮かべながらも
迷うことなく行動している。

とつぜん話をかわるけど
この映画で僕が一番好きなシーンは
金大中がホテルの階段から逃げるところ。
脂汗をたらして足を引きずりながら逃亡する姿にしびれます。
ガタカ」で下半身不随のジュード・ロウ
はいずって階段を上るシーンも好きなんですよね。
映画の一番の功績は、アクションを時間的に拡大したところで、
アクションの速さよりも遅さの方にその本領があるんでないかと。
というわけで僕はこの異様に遅いアクションシーンがすきなんですよね。