イクエ・モリ/高橋悠治/内橋和久 LIVE

そっけないけどこういうタイトルなのだから仕方がない。
これでは誰がメインかもわからないけれど誰がメインでもない。
おそらくそういうライブを目指したのだと思われます。

モリがラップトップ、悠治がピアノとラップトップ、
内橋はペーパーナイフのようなものをバイオリンの弓で擦って
アンプで増幅するという見たこともない楽器、
それとギターと大量のエフェクター

ピアノはこの中で最も反射神経が高い楽器だと言えます。
他の二人は音を変えるのにやや時間がかかる楽器なので
「こういう音を出したい」という意思を最も早く実現できるという意味。
悠治は二人の出す音の変化にすばやく反応して
そのパターンや響きに寄り添うような音を次々と出していきます。
しかし場に合わせるだけでなく、自ら場の空気を変え
他の二人を導くように音楽を作り変えていく。

モリはラップトップミュージシャンとしては珍しく(僕の知る限りではですが)
非常にフレキシビリティに富んだ演奏をしていて驚きます。
事実上彼女の音が地の音になることが多いのですが
他の二人の音を実によく聴いていて、
音色もパターンも音量も変幻自在に操ります。
悠治がかなり突発的に変化をつけるのに対し、
彼女は薄い音から徐々に深いエフェクトをかけて
ゆっくりと場の空気を変えていく。
さすがはプロのエレクトロニクス使いだと関心します。

内橋は楽器の持ち替えやエフェクターの操作などで忙しく
他の二人の作った音に乗る形で演奏をしますが
特異な音色を生かして徐々に主導権を奪います。
ただあまり他の音を聴いていないように見受けられ
(事前の話し合いでそう決まっていたのかもしれませんが)
ここで彼が演奏に変化をつければもっと面白いのに、
と思う場面が何度もありました。

三人の演奏はそれぞれ質的に異なり
統一的な音楽の一部分ではなくそれぞれが独立していながら
バラバラにはならずに互いに有機的に関連付けあい
結果として一つの音楽を形成するようなシステム、
まぁ例えるならば生態系的なものとでも言いましょうか。

デュオだったら二人が価値的に等価な状態を作るのは
簡単ではないけれども出来ないことではない。
トリオとなるとどうしても誰かが中心になりがちで
三人が等価になるのはとてもむずかしいのでしょう。
完全に成功しているとは思いませんでしたが
面白いもんを見せてもらったなぁとは思います。
イクエ・モリのCDは一枚も持ってないので今度買ってみよう。