ジャ・ジャンクー『世界』

アメリカ映画を観たいなんて上で書いておきながら中国映画です。
本当は『プラットホーム』が一番観たかったんですけど
すっかり忘れてて間に合いませんでした。無念。

北京にある世界公園といういう公園が舞台。
ピラミッドやらエッフェル塔やら今は無きWTCやら
世界中の名所のミニチュア(といってもでかい)が飾ってある公園なのです。

ピサの斜塔の前では観光客達が
両手を上下に広げて踏ん張るポーズをとりながら記念写真を撮っている。
一瞬なにをやってるのかわからなかったのですが、
記念写真には彼らが倒れてくる斜塔を支えて
踏ん張っている写真が写っているんですね。

しかしこの映画のカメラは彼らと斜塔が重なる角度からは写さない。
そのため彼らはまるで宙をささえるアトラスのような
なんとも奇妙な映像がそこに写っているわけです。
ある視点から見れば一生懸命支えているものが
別の角度から見れば虚しく宙を支えている。

主人公タオ(チャオ・タオ)が信じて部屋で待つ
恋人のタイシェン(チェン・タイシェン)は
同じ頃、別の女の部屋でよろしくやっているのです。
ああ無常。

北京にいながら世界を回れるというコンセプトの公園ですが
中で働いてるタオにとっては息の詰まる閉域以外の何物でもありませんが
そこは単純に閉塞しているだけの場所というわけでもありません。
タオ自身が北京の外からやってきた出稼ぎ労働者だし、
中国の外からやってきたロシア人ダンサーもいる。
パスポートを取って外国に行く手段もないわけではない。
しかし彼女はそこから出ない。

そもそも世界の外に別の世界などないのですね。
彼女はそれをロシア人ダンサーのアンナから学んだのではないかと思います。
お互いの言葉を知らず、共通の言語もない彼女達が
タオは中国語で、アンナはロシア語で話しながら
食事やジェスチャーや歌で心を通わせていくシーンは本当に美しい。
パスポートをもるアンナを羨ましがるタオですが、
アンナの自由がこの世界の外にあるわけでもないことを知り、
彼女もまたこの世界の中に居ながらにして
別の世界へ旅立つこを決意するわけです。