宮崎駿『未来少年コナン』@

まぁやっぱこれが宮崎の最高傑作だと思うわけですよ。
何がすごいってコナンの強さね。
それは超人的な筋力のことじゃなくて一点の曇りもないその意志。
以降の作品ではコナンほど迷いがない主人公って出てこなくて
まぁそれは何よりも啓蒙家である宮崎にとっては
避けることのできないことなのだったと思うんですが
この時点ではそういう人物を描くことができたわけですね。
それは視聴者としては幸福でしょう。

ラナを追いかけて港に着いてモンスリーちゅわんを見た瞬間
そのあとどうなるかなど考えずに飛びかかる。
そして案の定捕まる(笑)
下がどうなってるかなど考えずに飛び降り
空中で手すりを見つけて飛び移る。

つまりコナンには逡巡というものが全く無いのですね。
停滞しようとする力に対して常に正面から突撃し
一転突破しようとするストーリー展開。
目標にめがけて常に最短距離を走り飛ぶアクション。
この作品のもたらす爽快感は全て
一点の曇りもなく前だけを見つめる
コナンの視線によってベクトルが定められているわけです。
超人的な筋力を可能にしているのもその意志の力によるのですね。

まぁしかし一点の曇りもない意志だったら
アンパンマンにだってあるわけでして、
それとコナンとを隔てるものは何かと言えば、
突破される側の停滞しようとする力ですね。
コナンと同じく非論理的なまでに迷いがなく
その意味でコナンの裏面であるとも言えるレプカと、
他の人物が一種の記号化されたキャラクターである中で
唯一自我を持つ人物であるモンスリーちゅわん。
このペアのヒールっぷりが素晴らしいのですね。

超人コナンに何度ぶち当たられようとも
その度に跳ね返そうとする鉄のようなレプカと、
同じく鉄のように心を閉ざしながら
ぶつかられる度に徐々にコナンに魅かれていくモンスリーちゅわん。
庭での二人の邂逅の感動的なこと。
入り江での二人の沈黙の美しいこと…

あとね、話は飛ぶんですけど
水中のシーンが本当にすばらしいんですよね。
あと何分息が持つかというタイムリミットのドキドキと
重力から解放されたコナンの運動性が組み合わさって
ピンと張り詰めた沈黙に引込まれますね。
後の作品で全然使わないのがもったいないくらいです。