アルノー・デプレシャン『エスター・カーン めざめの時』

もうすぐ『キングス&クイーン』が公開なので予習のために借りてきました。

一応あらすじとしては、主人公エスター(サマー・フェニックス)の
女優として成長物語ということになるわけですが、
エスターが「大人の階段を昇るシンデレラ」として
一歩々々成長していくっていうような話ではなくて
様々なエピソードがそれぞれバラバラに語られ
それらの集まりを全体として見ると「エスター・カーン」
という人物(の物語)が浮かび上がってくるというようなイメージ。
曖昧さが支配する映画と言いましょうか。

そもそもエスターが成長してるかどうか微妙。
幼少期の経験(のエピソード)が、女優としての彼女に
どのような影響を与えているのかよくわからないし、
後半の、恋愛→失恋→自傷という流れも
エピソードとしては強い印象を残すものの
それによって成長した彼女の姿が具体的に描写されるわけではなく、
おざなりなナレーションと共に物語りは終わっていきます。

通常の人の感情を持たないエスターは常に表情も曖昧です。
怒りや悲しみを感じているらしい場面や
フィリップ(ファブリス・デプレシャン)との
恋愛から失恋までの一連のエピソードを見ても
強い感情が表に現れることができずに
曖昧なまま内に渦巻いているのがうかがえます。

彼女の顔は物語の形式と同じく、
様々な感情が、曖昧なまま積み重なったその総体の
複合的な表情だと言えるかもしれません。
とにかくその曖昧さに魅了されてしまうのです。