ジョセフ・フォン・スタンバーグ『モロッコ』

手元に本が無いのでうろ覚えですが、蓮實重彦

スタンダールの『赤と黒』を古い小説とは誰も言わないのに、作られて100年も経っていないウォルシュの映画は古い映画と言われてしまうことにゴダールは苛立つ。映画とは過酷なまでに現在の体験なのだ。
(訂正:ウォルシュじゃない、ムルナウだった)

みたいなことを言っていました。
ゴダールには怒られてしまうかもしれないけど、
僕はヌーヴェル・ヴァーグより前の映画については、
どうしても「古い映画」として観てしまいます。

それはつまらない映画、という意味ではもちろんなくて、
実際この『モロッコ』という映画も本当に面白い。
キャバレーでのディートリッヒの客のあしらい方とか、
クーパーの立ち振る舞いの鮮やかさ。

婚約発表の場だと言うのに、凱旋の歌が聴こえてきて
おたおたと取り乱すディートリッヒは
まるでバカみたいだと思うけど、
真珠を撒き散らして走っていく彼女を見たら
やっぱりグッときてしまうわけです。

でも、なんで「古い映画」だと思ってしまうのか。
上の、キャバレーや婚約発表の演出が
現在の映画でやったら成立しないからでしょうか。
そんなこと言ったら、60年代のゴダールの真似だって
今やったら悲惨なことになります。

映画を現在として体験するには、
ディートリッヒの部屋でのキスシーンは素敵だとか、
アドルフ・マンジューが渋すぎる!とか言ってるだけじゃなくて、
この映画のどこがどうよくて、
今だったらどこがどう使えて、どこが使えないのか、
みたいなことを正確に考える必要があるよなぁ、と思うのですね。
まだまだ修行が足りません。