アモス・ギタイ『キプールの記憶』

冒頭で布の上(キャンバスかと見せかけてベッドなのですが)に
4つか5つくらいの色の絵の具がぶちまけられ、
それが手でこねくり回されます。
最初は気持ち悪い映像なんですが、
そのうちこねくり回す腕が2本になり、3本になり、
カメラが引いて、絵の具まみれでセックスしてる主人公たちが写ります。

単純に解釈すれば、布は中東、絵の具は民族、
どろどろした絵の具の絡まり合いを、
官能的なものとして肯定的に捉えなおす試み
というふうに読めるわけですが、
このあとそういう展開になるかというと
全然そんなことにはなりません(笑)

そのあと始まるワインローブ(リオン・レヴォ)たちの
弥次喜多道中みたいな話は
戦場で迷子になって右往左往する二人を捉えたコメディで、
部隊が全滅し死体の山となった塹壕
死体をヘリに乗せて帰ろうとする指揮官を止める場面なんかは、
戦場の悲惨さなどまるで感じられず、
ひたすら面白おかしい場面として描写されます。

そのあと訪れるのは何やら憂鬱な描写です。
基地では兵士達が故郷の話を語る長い場面があり、
戦場のシーンは先ほどまでのように
面白おかしく描かれるわけではないのですが、
戦車やヘリはただの鉄の塊のように、
救護活動もまるで他人事のように描かれ
戦場が単なる一風景になってしまったかのようです。

そして、最後になって
戦場は急にリアルなものとなって表れます。
と言っても迫力のある戦闘シーンが演じられるわけではなく、
湿地帯から負傷兵を救出する主人公達が
泥まみれになってこの地上を呪うシーンが延々と続き、
訳のわからないままヘリが打ち落とされます。
(敵の姿は一切見えません)

そしてラスト、再度の恋人との絵の具プレイ(笑)に、
最初とは違った印象を覚えるでしょう。
恐ろしく混濁した戦場の描写のバリエーション、
とでも言うべきものを見せてくれるのです。


どうでもいいけど。
絵の具ってものによっては重金属も使われてたりして、
塗りたくったら体に悪いですよねぇ。
粘膜とか口の中に入ったら痛そうだ(知らないけど)
見てる分には艶かしくていいんだけど、
実際に気持ちがいいとは思えないんですよね。

そう言えばこれは体験を基にした自伝的映画のはず。
ギタイは美術系の学校(建築専攻だけど)の出身だから
ホントに絵の具プレイをやっていたのかもしれません。
あなおそろしや!

訂正:工科大学の建築科ですね。絵の具は関係ないかな(笑)