中条省平『小説家になる!』

いや、僕は書かないですよ。誤解しないでね。
非常に明快な小説の技術論なんで、
解説としても最適なのですよ。
小説ってどこをどう面白がればいいのかわからない、
という人は読んでみたらいいかもしれません。
映画の見方がわからないって人は
ヒッチコックトリュフォーの『映画術』を読みましょう。
…って僕は何の宣伝をしてるんでしょうか。

中条は映画批評もやってる人で、
この本の中でもよく「映画的効果」
についてよく語ってるんですね。
「背景を描写すればカメラを引いたことになる」とか
「カメラ・アングルが変わった効果がある」とかね。

レイモンド・カーヴァーの『大聖堂』は、
盲人に大聖堂がどんなものか説明しなきゃならなくなって、
口で説明できないから彼の手を握って一緒に絵を描く
って話なんですね。

小説は字を読まずに朗読を聴いて楽しむことも可能で、
あまり視覚に頼らない表現であるように思ってだけど、
言葉を脳内で変換するときに、
いかに自分が視覚イメージに頼っているか、
ってのがこの『大聖堂』の解説でよくわかります。

で、前述の「映画的効果」ってやつも
視覚イメージが小説に影響を与えてる例の一つなんですが、
我々の日常的な視覚ではなくて、
映画という小説よりもだいぶ新しい表現が、
小説に影響を与えた例なのですね。

基本的に視覚芸術ではない小説というジャンルに、
新しいメディアの発展が大きな影響を与えている。
同様に、ほぼ純粋に聴覚芸術だと思われている音楽にも
他のメディアでの感覚的拡張が
侵入している可能性があるということですね。
今考えた限りでは思いつかないんですけど。