ガス・ヴァン・サント『ラストデイズ』

何本かしか観てませんが、ヴァン・サントの映画においては
「結末の見えた物語」をどのように収束させるか
というのが重要なテーマの一つになっています。

カート・コバーンの死に着想を得た」
と事前にアナウンスしている以上、
観客は、マイケル・ピット演じるブレイクが
最後に自殺することはわかっていて、
その結末に向かう物語を観るわけです。

似てはいませんが、この映画は
キェシロフスキの『偶然』のように、物語のいくつかの可能性の束を
一本の映画にまとめたものだと言えます。
もちろんこの映画は『偶然』とは逆で、
一つの結末に至る道の様々な可能性を見せるものです。

と言っても、自殺の引き金になるような事件が起こるわけじゃなくて、
彼が過ごす最後の二日間が、淡々と描かれるだけです。
ブレイクが、まるでアンジャッシュのコントみたいに
電話会社のオッサンと会話にならない会話をかわすシーンとか、
コーンフレークを食ったあとで、
牛乳をそのままにして、シリアルを冷蔵庫にしまうシーン(笑)で、
彼がブチキレたエキセントリックな人物ではなく
醒め切った狂気を帯びた人物として描写されるんですね。

自殺までの二日間が、時間を追って描かれるのではなく、
同じ場面が視点を変えて何度も描かれるんですね。
最初はブレイクの友達のルークがが帰ってきたら
台所でブレイクが飯を食ってる場面が描かれて(ルークの視点)
後でブレイクが飯を食ってるところに
ルークたちが帰ってくる場面が描かれる(ブレイクの視点)
と言った具合。

別の視点とは言っても、カメラまで完全に別ってわけじゃなくて
同じカットを何度も使いまわすんで、
同じ出来事が何度も繰り返され、
しかも繰り返すたびに少しずつズレていくっていうような
差異と反復的な描写になっていて、
ブレイクの狂気がぼんやりと浮かび上がると同時に
なぜ死ななければならなかったのかは全くわからない
というような不思議な感覚になっていくのが面白いです。


どうでもいい話。
連れが「グランジ・ファッションと言えばこれ(笑)」
って履いてきたコンバースのスニーカー、ジャックパーセルを、
映画の中でマイケル・ピットも履いてたんで、
上映中、周りはしーんとしてる中で僕たち二人だけが笑ってました。