星野智幸『ロンリー・ハーツ・キラー』

話もちょーおもしろいし、
知的で刺激的な仕掛けがいっぱいしてあって、
そういうの全部読み解けたらもっと面白いんだろうな
って思うと、自分に小説を読む力がないのが悔しくなります。

例えば「オカミ」ってワード一つとっても、
「若オカミ」なんて書かれてるから
読み始めた頃は女将さんを連想するわけです。

で、女なのかなってイメージで読んでると
どうやら天皇のことを指すワードらしいってことがわかる。
そこで友達のいろはが登場するんですけど、
いろはも最初、男か女かわからなくて、
オカミのイメージが国民の末端まで規定してる
っていう雰囲気がなんとなく漂ってくる。

さらに進むと「オカミ=神」みたいな連想もはたらいて
キリスト教的なものとも微妙にシンクロしたりするわけです。
もう、頭が痺れてクラクラします。
ここら辺を詳細に解説した文章とか読みたいですねぇ。

「偽日記」で古谷利裕さんもちょっと書いてたんですけど、
この小説がすごいのはやっぱり最終章なんです。
「オカミ」っていうマジックワードによって世界が精巧に仮構されて、
オカミが不在になることによって、
2章までは否定神学的様相を帯びてくるんですけど、
3章では不在だったオカミが勝手に逃走してしまう。
んで、オカミがいなくなった世界が肯定されることによって
否定神学的な構えが乗り越えられるんですね。
ここら辺がめちゃめちゃスリリングなわけです。