カーティス・ハンソン「8 Mile」

どのシーンも観てるだけで身が切れそうなほど美しい。
話の筋だけ拾ったら、甘っちょろい青春ムービーなのに
なんでこんなに美しいのか。謎だ。

最初は俳優がいいからなのかと思いなが観ていた。
神経質になって殺気立ちながらも
どこか脆そうなバトル前の表情とか、
一転して優しい妹に対する笑顔とか、
エミネムがすごくいい顔してるんだけど、
それだけで持ってる映画ではない。

母親(キム・ベイシンガー)の自堕落っぷりもすごいし
妹はめちゃめちゃキュートだし、
ボブ(エヴァン・ジョーンズ)の間抜けっぷりと
悲しみを湛えた表情もすばらしい。全員がいいのだ。

つまりは俳優の顔や演技が特別いいっていうよりも、
顔の撮り方とか、ちょっとした仕草の捉え方が
すごく上手いんでしょうね。
どこがどう上手いのかは説明できません。謎。

ジミー(エミネム)は、掃き溜めのような生活を恥じていて
恋人(ブリタニー・マーフィ)にも隠そうとするんですけど、
彼女は『そんなことは関係ない、今の生活も全部ひっくるめて
お前は出来る男なんだ』って言ってあげるんです。
自分の股を撃ち抜いて、退院してきたボブは
バカにされるのが嫌だからみんなに顔を会わせられない、
って言うんですけど『お前はMCボブだ。俺の仲間だ』
ってな感じで、ジミーは彼を受け入れるわけです。

いやはや、ほんとに美しいですね。
ダメなヤツほど救われるっていうキリスト教文化ですかね。
親鸞も同じ思想のはずなんですけど、
日本だとあんまこういうのないですね。

見る前はエミネムなんて興味なくて、
ホントに面白いのかなぁ、つまんないラップ合戦見せられたらやだなぁ
って思ってまして、まぁ観終わった今でも音楽的には興味ないんですけど、
彼の曲が好きじゃなくても面白く観られたし、
むしろ彼のファンになってしまいましたね。


関係ないけど。
ちょっと前にエミネムの歌詞の
同性愛に対する差別的表現が問題になったことがあって、
僕は、プアホワイトがさらに弱い者を攻撃するっていう、
ネオナチとか2ちゃん右翼の外国人排斥とも通じるような
クソみたいな話なんだろうと思って、彼を軽蔑してたんです。

でもこの映画を観たら、ゲイの友達との友情も描かれてるし、
『オカマ野郎』っていう表現は、排他的な意味があるわけじゃなくて
『ニガー』とか『ビッチ』と同じような表現なんですね。
関西人の使う『アホ』にさして悪意がないのと一緒ってわけです。
エミネムさん、今まで誤解しててごめんなさい。